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中村まり 『Beneath the Buttermilk Sky』 全曲レビュー

Beneath The Buttermilk Sky
Beneath The Buttermilk Sky中村まり


おすすめ平均 star
star古い言い回しをすれば、擦り切れるまで聴けそうな…

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あたたくて、なつかしい風景を探しに。

高い評価を得た『SEEDS TO GROW』から4年。より深化したアコースティック音楽への愛情はしなやかなメロディーを育んで、ここに珠玉の名曲集が誕生した。みずみずしい歌声を響かせながら、アメリカン・ルーツ・ミュージックへの旅を続けるシンガーソングライター、中村まりの待望の2ndアルバム。



その名も「曇り空の下で」と名づけられたこのアルバムは、多彩な音楽性を持ちながら、その歌詞を読み解くと孤独の中でなんとか前向きに生きようとする姿が浮かび上がる、すべての迷える人々の心を揺るがす大傑作となりました。

1.A Brand New Day

ギター1本のイントロに続く「今日は新しい日 私は君の新しい友人で 新しい愛の伝え方を 見つけたんだ」という歌い出しがアルバムの冒頭を飾る。人との心のすれ違いを歌った内容で、遊び心あるコーラスと、絶妙に絡んでくる安宅こうじさんのギターとの丁寧なアンサンブルも聞きどころ。ブレイクの部分でそれらがひとつになり、「新しい愛の伝え方」が歌われるのである。これから新しいアルバムが始まる、というワクワクするような1曲目。

2.Invisible Man Blues


イントロで左から右にギタースクラッチが動き、ドラムとベースが入ってくる瞬間に、ただごとでないグルーヴが漂う。トーキングブルースのような低音で歌うAメロから、「誰も彼の顔を見てはならない」というBメロに唐突に入ってくる高音のコーラスは、強烈であると同時にユーモラスであり、まるで「透明人間」をからかっているかのよう。骨太なバンドサウンドの中を、重ねられた歌声が自由に動き回り最後まで曲を彩る(彩る、というより、これもからかっているみたい)。

3.Little House

キャッチーなイントロが全体のトーンを印象づける、"リトル"チューン。
生まれ育った家への郷愁が歌われ、弾き語りをベースにしたテイクに、1バースごとに異なったちょっとした「味付け」がされている。
1番と同じ歌詞が、最後にハーモニーを加えて繰り返されるのは、このずっとそこにある小さな家に少しだけ変化が訪れたようにも聞こえる。

4.From the Other Way Around

スネア1発から始まるイントロが気持ちいい。本アルバム中もっともストレートな音楽性(敢えて言えばフォーク・ロックか)を持ったポップ・チューンで、本人によって重ねられた小気味いいエレクトリック・ギターがそこに奥深さを与えている。録音前にはロン・セクスミスを感じさせる曲だったが、また違うハッピーな印象の曲に仕上がった。その中にもギュっと胸を締め付けるような詩が1バース差し込まれ、切なさを漂わせる。

5.Black-Eyed Susan


曲名の時点でもう名曲であることが決定している、前半の最大のハイライト。
ギターと歌だけで完全に成立しているのだが、何度繰り返し聞いても全く飽きないのはハーモニーの多彩さも一役噛んでいる。
ハーモニーが入ってきて3つ目の和音から4つ目に移るときに(後から思えば、3つ目が入ってきた時に)、このハーモニーが単なるハモりでない、安らぎと狂気が同居したとんでもないものであることに気づく。間奏のファルセットの部分はこのアルバム中もっとも美しい瞬間のひとつである。コード進行にポール・マッカートニーからの影響が見え隠れする。ブラック・アイド・スーザンとは、北米に咲く花の名前。

6.If Only I Had Known

弾き語りの後ろに、リヴァーブの深い、意外なドラムのサウンドがとてもクールに響く。楠均さんによるこの素晴らしいドラムが録れたことでこの曲の成功は完全に決まった。アンニュイでメロディアスなエレクトリックギターは意外にも中村まり本人が弾いている。ルーツ色の強いこのアルバムの中、もっとも新しい手触りのサウンドを持った曲。

7.Bye-Bye Street

ミシシッピ・ジョン・ハート風のカントリー・ブルースだが、題名の通り「別れ」について語られた詞はとても悲しい。
イントロから聞こえる人を喰ったようなジューズ・ハープのバッキングがその別れの悲しさを(調子外れに?)明るくしてくれる。

8.How Sweet!

彼女が尊敬する交流のあるミュージシャン二人に捧げられている詞は、ほほえましく胸があたたかくなる。
明るいリフとメロディにブルースハープが哀愁を加える。ブリッジの部分に下から上昇してくるウーコーラスのやさしい旋律がすばらしい。
んー、なんて素敵なんだろう。

9.This Old Map

悲しくも美しい詞と旋律が溶け合った名曲。
岸本一遥さんの寄り添うようなフィドルがこの曲の魅力を最大限まで引き出している。

最後のハミングとフィドルの完璧な音の会話から、フィドルの素晴らしいエンディングソロへの流れは、あまりの美しさにアレンジの仕様がなかったと言う。

10.Caught in a Roundabout


弦楽器4本が本領を発揮するかのように軽快に跳ね回る、中村まり流ブルーグラス・チューン。
本アルバム中、一聴して一番驚くのは、原さとしさん岸本一遥さんという日本のブルーグラス界のトッププレイヤーを従えたこの曲でしょう。
一度終わりかけたメリーゴーランドは、エンディングで再びトップスピードで回り始める。
この最高にカッコイイエンディングは、それ自体が「堂々巡り」であると受け取ることも出来るのだ。

11.Lonesome Valley Blues

「人はみな1人で孤独の谷を歩かなければならない」と繰り返されるトラディショナル・ブルースで、ミシシッピ・ジョン・ハートのヴァージョンが下敷きになっている。
チューニングが1音下げられたギターから弾かれるその音色は一瞬にして谷底にいるかのような異様な空気をつくり上げ、後半「ああ、神様だって1人で孤独の谷を歩かなければならなかった」と歌い上げられるファルセットは、孤独の谷からのたった一人の叫びに聞こえ背筋も凍る。
歌とギターが作り上げた稀有な瞬間をディスクに刻み込んだ録音である。

12.Night Owls

夜更かししてお喋りをする男女を二羽のフクロウに例えた、夜の風景が浮かんでくるような名バラード。
近年のライヴのハイライトであるこの曲が世に出る日が来ました。

ハーモニーは極限まで抑えられている。真夜中を告げるかのような、松永孝義さんのベースが入ってくるまでの間、ハモるのは一箇所「And talk for hours together」だけ。
つまり「一緒にお喋り」している間だけなのである。

ほんの少しづつハーモニーは増えていく。
「だって時に私たちは自分が信じていないことと向き合わなきゃならない」と歌われる部分で、ハモるのは「with something We don't Blieve」の「Believe」の部分。
つまり、信じていないことについて歌っているのに、「私たちが信じている」「Believe」の部分だけをハモらせる。
ハモりひとつ取って、ここまで深読みさせることのできるコーラスアレンジ。涙が出てきます。

夜は更けていき、二羽のフクロウがついに一緒に歌い出す頃には、星が輝いているかのようなマンドリンの旋律が加わるのである。
夜中に部屋を真っ暗にして泣きながら聞きましょう。

13.Going Back To My Home

なんという悲しい曲なのか。押し付けがましくもなく、物語風でもない。孤独なつぶやきのような、これ以上悲しい曲がありますか。
岸本さんの美しいフィドルがまた切なくて。

「魂が離れるときには、孤独の谷はもう無いのだから」という詞は、死ぬことを意味するものだろう。
新しい愛の伝え方を見つけたこのアルバムの主人公は、バイバイストリートを通って、孤独の谷を歩き、最後は死んでしまうのだろうか。

最後の最後に、「This Old Map」のテーマとともに古いバンジョーの音が鳴り始める。その音は少し元気になって、「ああ、彼女はまた旅に出かけられるのかもしれない」というところで、アルバムは幕を閉じるのである。
2009年06月15日 | 音楽

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